リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理 / ダン・ガードナー(著), 田淵健太(訳)
- 作者: ダン・ガードナー,Dan Gardner,田淵健太
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/05/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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人が持つ思考システムを以下の二つ
- システム・ワン
- 感情。無意識なもの。出来るだけ速く動く。本書で「腹」と言われるもの。
- システム・ツー
- 理性。ゆっくり働く。本書で「頭」と言われるもの。
に分け、「頭」と「腹」が別々に考え、そして「頭」の判断に「腹」がいかに影響を及ぼしているかを、たくさんの事例を使って記述しており、非常に大変おもしろかったです。
本書では心理学で使用するバイアス(認知バイアス - Wikipedia, Category:認知バイアス - Wikipedia)とヒューリスティックス(ヒューリスティクス - Wikipedia)という言葉が出てきます。
バイアスとは「偏見」というよりも傾向のことで、ヒューリスティックとは素早い判断を下すために(暗黙のうちに)行われる法則のようなものです。
本書で扱われている代表的なバイアスは以下のようなものです。
- 確証バイアス
- 先入観に基づいて、自分に都合の良い情報だけを集め、さらにそれによって先入観を固定する傾向
- フォン・レストルフ効果
- 普通とは異なるものを記憶しやすいという傾向
- 楽観主義バイアス
- 「平均よりは良い」効果。集団内で自分を楽観視する傾向
- 自己奉仕バイアス
- 成功は自分のおかげ、失敗は他の要因によるとする傾向
- 後知恵バイアス
- すでに起こった事象について、後からそれが予測可能だったとする傾向
同じくヒューリスティックは以下のようなもので
- 係留と調整のヒューリスティック
- 本書では係留規則と言われるもの
- 代表制ヒューリスティック
- 本書では典型的なものに関する規則と言われるもの
- 利用可能性ヒューリスティック
- 本書では実例規則と言われるもの
- 情動的ヒューリスティック
- 本書では「良い・悪い」規則と言われるもの
それぞれ
- 係留規則
- 正しい答えがはっきりせずに推測するとき、「腹」は、最も手近にある数字、つまり最近聞いた数字に飛びつく。世論調査を自分の目的に合うように歪曲するためにも使える
- 典型的なものに関する規則
- 何か「典型的な」ものがかかわっていると、直感が発動する。直感はひたすら正しいと感じる。そして、直感が関与するといつもそうであるように、私たちは、論理や証拠に逆らうことになるときでさえ、直感に従う傾向がある。
- 実例規則
- 実例を容易に思いつくことができればできるほど、より一般的であるとする
- 「良い・悪い」規則
- 何かに直面したとき「腹」は、即座に、それが良いか悪いかという生の感情を抱く。その感情があとに続く判断を導く
と定義されています。
この時点で、あーなるほど、と心当たることは色々あると思いますが、実際に人がどのようにバイアスに陥り、根拠のないヒューリスティックによって判断してしまうかは本書を読んで楽しんで下さい。
多分、著者がこの本を書いたのは911以降の「テロとの戦い」があまりにも理不尽だったためだと思いますが、本書の中で繰り返し書かれている
ニュース・メディアと政治家、世間がフィードバック・ループの中に閉じ込められ、着実に恐怖を増幅していく
はずっと同じように繰り返さています。
日本語版が出たのは、豚インフルエンザ(と呼ばれていた)でパンデミック騒動になっていた頃ですし、今まさに地震・津波・原発と恐怖が繰り返し喧伝されています。
私には今回の地震、津波が「低頻度大規模災害」なのかとか、地震・原発が思っているより安全なのかは、まだ判断できていません。
ただ、現在の情報の伝え方で本当に必要な情報がセンセーショナルな情報に埋もれていないのかとか、原発を廃止するにしてもしないにしても費用便益分析をしないと話にならないとか、そういうことを考える必要はありそうです。
と、何か話がずれて来たので最後に著者が一番言いたかったであろう部分を引用して終わりにしときます。
自分自身をいわれのない恐怖から守るため、「頭」を目覚めさせ、仕事をしろと言わなくてはいけない。私たちは一生懸命考えるようにならなくてはいけない。
それでもまだ「頭」と「腹」の意見が一致しないなら、ごくりとつばを飲み込んで、「頭」に従って欲しい。