現場で使えるIFRS導入の実務 会計・業務の変更、システム・内部統制への対応まで / 野口由美子,石井昭紀

現場で使える IFRS導入の実務

現場で使える IFRS導入の実務

IFRS導入プロジェクトの進め方の本。
影響範囲が大きい(会社をまたぐような)プロジェクトの進め方に関して、専門知識が必要な領域で使用するリソースの適用方法も含めて記述した本として読んでもおもしろい。
こういうプロジェクトに関わる機会は、この先もなかなかなさそうだけど勉強になります。

ということで、以下はメモ。

IFRS(International Financial Reporting Standards : 国際財務報告基準)
IFRSは投資家のための基準書
IFRSにおける財務諸表の種類
  財政状態計算書(貸借対照表)
  包括利益計算書
  持分変動計算書
  キャッシュ・フロー計算書
IFRSと日本会計基準の違い
  原則主義 ←→ 細則主義
    原則主義では会社が判断をする必要あり。細則主義では会計基準や実務指針に書いてあるかで解決する
  資産負債アプローチ ←→ 収益費用アプローチ
    経営成績の評価に貸借対照表(財政状態計算書:B/S)と損益計算書(包括利益計算書:P/L)のどちらを重視するか。損益計算書の当期利益を重視するか、貸借対照表に計上されている資産や負債をどのように評価するか、期末時点に会社が有するキャッシュ・フローの獲得能力を重視するか
    包括利益≠当期利益 包括利益は純資産の変動全てを含むが、当期利益は時価評価による評価差額など(その他有価証券の評価差額)を含まない
  時価(公正価値)会計 ←→ 
    再評価モデル 固定資産も時価会計を適用可能。

IFRSの現業業務への影響の例
  販売業務 売上計上のタイミング, リベートの処理
  購買・生産業務 棚卸資産の評価方法, 原価計算処理
  財務管理業務 ヘッジ管理, 外貨換算処理
  人事管理業務 有給休暇管理

会社の会計方針の決定

IFRSの導入スケジュール
  調査・計画段階
  計画実行段階
  運用監視段階

  計画実行段階完了後に導入する。
  IFRSベースの開始貸借対照表を作成する時点をIFRS移行日という
  運用開始段階で開始貸借表以降の比較年度の財務諸表を作成する。さらに非確認度の翌年度がIFRS適用初年度となる

プロジェクト憲章
・プロジェクト名
・プロジェクトの背景
・プロジェクトの最終目的 (水準も含める必要あり)
・プロジェクトの成果物
・予算
・期間
・プロジェクトが完了する要件
・プロジェクトの組織体制
・プロジェクトマネージャの権限と責任

  プロジェクトの組織体制
  ・プロジェクトオーナー(経営者)
  ・ステアリングコミッティー(運営委員会)
  ・プロジェクトマネージャ
  (・コンサルタント)
  ・プロジェクトリーダ
  (・事務局)
  ・プロジェクトメンバー
  プロジェクトマネージャ 経理部長もしくは経営企画部長がになることが一般的

内部統制の3点セット
  リスクコントロールマトリクス
  業務フロー図
  業務記述書

IFRS導入の差異分析
  会計, システム, 業務プロセス, 内部統制

担当監査人と確認しておくべきチェックポイント
・会計方針の差異ない異様
・差異の影響額
・調査結果の十分性
・修正の方針
・監査上必要な手続きの有無

リスク分析
  リスクのランク付け
    リスクの発生確率 * 追加コストの見積り
    (3段階程度 A, B, C) (3段階程度 大, 中, 小)
  シナリオ比較表

親会社の会計方針 → グループ会社の会計方針

会計方針の文書化
  税法基準→合理性の説明が必要
  棚卸資産の原価の会計方針策定
    標準原価法, 売価還元法を採用する場合は要注意
  固定資産の減価償却の会計方針策定
    税法の基準に基づいている場合IFRSと差異が大きい場合がある
    残存価格, 耐用年数, 償却方法の考え方の違い
      償却方法 定額法, 定率法, 生産高比例法
        資産の使用初期の稼働率が高い, 技術的に陳腐化するのが早い場合は定率法

IFRS適用初年度については、遡及適用の免除規定がある
  過去分の修正の差額は期首の剰余金で調整

会計方針 - 会計処理, 開示項目
  開示項目
    重点項目

中小企業向けIFRS
  上場企業のグループ会社でも情報開示義務がない会社が採用可能
  (日本で適用されるかは、まだ法制度上は不透明)

組替え手続き
  差異の組替え方法のマニュアル化
    インプットとなるデータとアウトプットとなる仕訳の明確化

新業務(変更)の定義
  業務体制 担当者の役割分担
  業務の設計 変更する業務のルールや手順の決定(内部統制も含む)
  情報のリレーション 必要な情報の項目, 入手方法, 入手のタイミングの検討
  業務の頻度 日次, 週次等の業務のサイクル
  人材スキル 業務担当者に必要なスキル

新業務(追加)の定義
  新業務の機能
  業務体制 役割分担, 責任分担, 管理のタイミング
  情報のリレーション インプット, アウトプット
  業務の頻度 工数, 期間
  人材スキル 必要なスキル

システムの改修
  企画, 要件定義, 開発, 保守, 運用
  SIerの選定
    RFP, RFI(情報提供依頼書)
    過去データの取扱い(遡及しての再計算・データの保全や将来の対応不可の軽減等も含めた現実的な提案)
    代替案の実現性および発生するコストの把握(QCD:Quality 品質, Cost コスト, Delivery 納期の優先順位)
    UAT(User Acceptance Test:ユーザ受入テスト)のシナリオ作成/実施等のリソース確保

トライアルの時期 新業務移行の最低3か月前
    
開始貸借対照表の作成
  IFRS移行日 ↓ 開始貸借対照表  
             ↓ 比較財務諸表
  IFRS報告日 ↓ 初年度財務諸表      ← 新しい基準書の適用

  移行日に適用する基準書は報告年度の期末日に有効な基準書である必要がある → IFRS移行日に適用されていない基準書であっても、IFRS報告日に強制適用となっている基準書があれば、それに準拠する必要がある

初年度適用に伴うデータの移行

内部統制での各プロセスのモニタリング
 スコープの定義
 モニタリングレベルの定義
  モニタリング方法
    記録点検
    業務観察
    対面ヒアリング
    アンケート

課題に対する対応策
  トレーニングの追加
  マニュアルの追加・変更
  システムの回収
  人員の追加
  BPO(Buisness Process Outsourcing)

業務プロセスを改善する2つの方法
  分析的アプローチ (as-isによる問題把握)
  ワークデザイン法 (to-beによる要件定義)

IFRS 適用のタイミング+適用の具体的方法/処理は会社で決める必要あり
     最適な方法を選択するためには、経理上の専門的な問題でなく会社業績に直結する問題として経営者側からの関与が必要


各業務・システム設計におけるポイント

売上計上のタイミング
  収益認識のタイミングの例
    顧客との契約
      顧客へ商品やサービスを移転する義務(契約負債)
      会社に顧客から代金を受け取る権利(契約資産)

      商品の引渡により義務を履行→契約負債が減少し、契約資産を計上する
      →契約負債が消滅したことにより、契約資産を計上する。この相手勘定が売上

   出荷基準を採用することが困難になるケース
     契約に所有権移転条項が明記されている
     運送中の保険の取扱いが会社負担になっている
     代金回収条件として検収が必須となっている
     返品の取り決めがされている

リベート等の販売促進費
  ボリュームディスカウント 割戻であるので売上から控除
  販売目標達成の助成金 割戻と考えられることが多いので売上から控除
  キャンペーン活動の経費の補填 原則経費として費用処理

棚卸資産評価
  評価損の処理方法
  IFRSの棚卸資産の評価方法 低価法
    日本基準との違いは評価損の処理
      日本基準 洗替法, 切放法
      IFRS 評価損の戻入処理

原価配分法
  IFRSでは標準原価, 売価還元法は簡便法であり、原則的な方法と計算結果に大きな差がない場合のみ採用可

固定資産
  耐用年数と減価償却法は全面的に見直す
  IFRSでは定額法が一般的な方法。ただし上記したような資産に関しては定率法を採用する
  減価償却単位 規模の大きな資産については単位を分けることを想定
  残存価格 日本基準では5%まで。IFRSでは実態に合わせて処分価額を見積もる必要あり(普通は0)
  日本の税法との乖離が大きいため複数帳簿で管理する必要あり

減損会計
  日本基準 割引前の将来キャッシュ・フローの総額と簿価の比較
  IFRS 割引後の将来キャッシュ・フローの総額と簿価の比較
  戻入

借入費用
  利息の資産計上
  遡及修正

研究開発費
  開発費と研究費に分けて管理する
  一定の要件を満たす開発費を無形資産として計上する必要がある
  償却期間によて過去の開発費も資産計上し、償却後の残高を計上する必要がある

  研究 新しい知識や理解を得るために実施される基礎的かつ計画的調査
  開発 生産の開始前における、新しい、または改良された生産のための計画や設計に関する知識の応用

リース取引
  従来のIFRS
    資産を所有することのリスクと便益を会社が有しているかに着目
      ファイナンス・リース
      オペレーティング・リース
  今後導入予定
    資産の使用権を会社が有している場合、その使用権をオンバランスする。

金融商品会計 複雑かつ煩雑に改訂されているので注意

機能通貨で記帳し、財務諸表は表示通貨に換算する
自国通貨と機能通貨はできるだけ一致させる

確定給付型の退職年金制度
  退職給付債務の期間配分
    IFRSでは支給倍率基準が原則
    日本では支給定額基準が採用されていることが多い
  割引率の設定方法
    国債の利回りと社債の利回り

有給休暇
  費用計上
    消化されてない有給休暇 → 未払費用(有給休暇引当金)

個別決算(IFRSで指針がないもの)
  貸倒引当金
  税効果会計
    繰延税資産の計上

連結決算
  支配力基準/重要性基準/潜在議決権
  重要性基準 日本基準では連結財務諸表に及ぼす影響の基準を定めて連結から除外することが可能だが、IFRSでは原則としては全部のグループ会社を連結に含めることになる
  潜在議決権 日本基準では議決権を増加させる新株予約権等の扱いに関する規定がない。IFRSでは潜在議決権を考慮することが明記されている。グループ会社が発行している潜在議決権と会社が保有している潜在議決権を全て把握しておくことが必要